この師走に「映画秘宝休刊、洋泉社解散(宝島社に吸収合併)」という衝撃的なニュースが飛び込んできました。
私は映画秘宝本誌は年間ベスト&トホホが載ってる号くらいしか買ってませんが、別冊映画秘宝シリーズ等の洋泉社ムック本は書店に行ったら必ず新刊チェックすることにしており、大体自宅のトイレに常時1冊は置いておいて毎日ちょっとずつ読むのが習慣になっているのです。
ニュースによると洋泉社は年間170点の新書やムックを発行していたそうで、これからそれが無くなってしまうとなると私の人生における潤いの供給源がまた一つ絶たれてしまうことになり実に無念な話です。日本の映画ファンにとって相当の痛手ですね。合併先の宝島社が今後も秘宝テイストのムックを出し続けてくれるとありがたいんですが。
そんなB級ホラー映画マニア必携とも言える映画秘宝・洋泉社ムックですが、私が特に気に入っているタイトルを挙げさせてもらうと、
「底抜け超大作」
「惨劇の世界映画事件史」
「鬱な映画」
「厭な映画」
「謎の映画」
「怖い、映画」
「トラウマ映画館」
「80年代悪趣味ビデオ学入門」
「最強アクション★ムービー決定戦~筋肉と爆発のチャンピオンまつり~」
…
…といったところ。
どれも素晴らしく読み応えがあり、映画マニア的にはもはや後世に残すべき学術書と言っても過言ではないハイレベルな書物です。
しかし、最後のやつを除けばどれもネガティブで後ろ暗い香りが漂う題名でもあります。
さすがに「糞な映画」とか「鮫の映画」とか「Z級映画大全」や「アサイラムの世界」や「ザ・プライムウェーブ」だとかそこまでタブーな領域に踏み込んだテーマの本はありませんが、洋泉社が存続していればいずれ出たでしょうし出れば買うつもりでもありました。
世間では明るく楽しいディズニーやピクサー、アメコミ、アニメが異常に幅を利かせまくる中、人はどうしてこうも路傍の石をひっくり返してはシデムシやムカデを眺めるかの如き昏く歪な趣味に走ってしまうのか?
その原因を辿っていくと、やはりそれは幼少期に触れたものにあるのではないかと思えます。
私がアンパンマンやトムジェリを卒業し、生まれて初めて「面白い!」と感じた映画は「エイリアン」でした。あれはエイリアン成体よりもフェイスハガーやチェストバスターの刺激が強すぎてしばらく悪夢にうなされるほどの衝撃的な恐怖でしたが、ああいう強烈な負のインパクトを求め続けて今日に至ってしまっている気がします。さらにそのすぐ後に「ジョーズ」「プレデター」に魅せられてしまった時点でその後の人生が決まってしまったとしてもおかしくはない。クイント船長が喰われるシーンは小学生の私にとって紛れもなく人生最大の恐怖を感じた瞬間でしたし、獲物の皮を剥ぎ内臓を抜き頭蓋骨をコレクトする宇宙忍者は唯一神の如き畏敬の念を抱くほどの存在でした。
さらにその後は「サスペリア」からダリオ・アルジェント、「ハロウィン」からジョン・カーペンター、「悪魔のいけにえ」からトビー・フーパーなどに傾倒していき、それに飽き足らずルチオ・フルチやミケーレ・ソアビ作品などに熱中したり、禁断のドイツホラーの世界にも多少触れてみたりしました。
しかし、上に挙げたのは基本的に誰も文句のつけようのない名作ばかりです。
ホラー映画マニアにはなってもクソ映画を好む理由にはなり得ません。
じゃあ何が悪いかと言えばそれはやっぱり「ジョーズ」のせいで、あの衝撃よもう一度とばかりに他のサメ映画を漁ろうとしたのがよくなかった。とはいえ80年代~90年代のサメ映画はまだそこまでキワモノ扱いされてはいなくて普通にダメなやつしか無かったんですが、当然ながら人を襲うのはサメだけではないことにも気づいてくるわけです。
それでもワニやヘビ、クモなんかはまだいいが冷蔵庫やらコタツやらアイスクリームやらが襲ってくるダメホラーがあると知ってしまったのはよくなかった。特にトラックが人を襲う「トラックス」なる映画との出会いは非常にまずかった。あの瞬間、「こんなくそつまらない映画があるとは!?」という負の衝撃が未知の新大陸を発見したにも等しい歓びとして私の中を駆け巡ってしまったのです。いや普通だったら腹を立てるところだとは思いますが。あれから20年も経つのに未だにクソ映画を漁り続けているとは想像していませんでした。これはもはや業ですね。
つまり、クソ映画やクソゲーを追い求める心理は幼い頃にチェストバスターやクイント船長から得たトラウマ的な「負の衝撃」への欲求から来ていると考えられます。だいたい木曜洋画劇場のせいとも言えるわけですね。これを読んでいるホラー映画マニア、クソ映画マニアの方もおそらくこれと似たような経験をお持ちなのではないでしょうか。
結論としては「クソ映画マニアとは、ホラー映画マニアが負の衝撃を追い求めるあまりねじれてしまい、突然変異的に余計な進化を果たしてしまった存在である」ということになります。言い換えるとそこはおそらくホラー系の人間しか到達できない領域です。例えば「アナ雪2」を観に行ってるような人が雪繋がりで「アイス・ジョーズ」をレンタルしてくるなんてことは絶対に起こり得ないでしょうからね。逆はありうるかもしれませんが。なので、これはそれなりに説得力のある仮説だと言えるんではないでしょうか。
ということで、洋泉社を吸収合併した宝島社さんにはこれからも「厭な映画」のような良書をバンバン発行していって頂きたいものですな。それこそ「Z級映画ワースト100」とか「詐欺的邦題&ジャケットの世界」など出したらウケると思うんですよ。
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