「隣の影」 感想 恐ろしく陰湿な隣人トラブル映画

概要

原題:Undir trénu
製作:2017年アイスランド
発売:ブロードウェイ
監督:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン
出演:ステインソウル・フロアル・ステインソウルソン/エッダ・ビヨルグヴィンズドッテル/シグルヅル・シグルヨンソン/ソウルステイン・バックマン/ラウラ・ヨハナ・ヨンズドッテル/セルマ・ビヨルンズドッテル

妻に浮気を疑われて家を追い出されたアトリ。仕方ないので実家に帰ると、今度は母親の機嫌が悪い。隣人に庭の木が日陰になるから切ってくれと言われ、怒っているのだ。母親は隣人の後妻が気に喰わないので木は絶対に切らないと言い放ち、奥方同士の対立が激化。
そして車のパンク、飼い猫の失踪、犬のフンを投げる、チェーンソー購入と互いの嫌がらせ合戦は次第にエスカレートしていき、アトリは見張りのため庭のテントで寝泊まりする羽目になるが…

予告編




感想


アイスランドのものすごく不愉快で露悪的な人間ドラマ。英語版wikiにはダークコメディって書いてあったんですが、これは全く笑えない。いや、確かに部分的には笑えるようなシーンも結構ありましたが、全体的に針のムシロに座らされているかの如き厭なムードが充満していてそれどころではない。私もアパートを転々とする暮らしが長く、何度か理不尽な隣人トラブルを経験してきたのでこの映画で起きたことも決して他人事ではなく身につまされます。



話の軸は2つあって、一つはアトリ実家の庭の木を巡る隣人トラブル。もう一つは妻に浮気を疑われて家を追い出されるが、納得いかなくて妻と娘につきまとってしまう哀れなクズ野郎アトリの離婚話。

後者はメインである隣人トラブルには直接絡んでこなくて、アトリが追い出されたゆえに実家に戻らざるを得なくなり巻き込まれる羽目になったという話の切っ掛け程度にしかつながりはありません。

が、そのわりに尺はむしろ隣人トラブルよりも長い。それぞれの対照的な結末を見ると、この2つの筋は対比表現だったのかなと思います。この映画の登場人物はみんな心に深刻な問題を抱えており、その鬱憤が些細な事で人間不信にまで増幅し、身近な人との破滅的な衝突へと発展していく。庭の木の影はそれを象徴する存在といった感じです。


出来が良いのは間違いないし、面白いことは面白いが、かなり厭な気分にさせられる映画です。中でも、アトリ母の飼い猫が失踪したことで、仕返しの矛先が隣人の犬に向いてしまうくだりはかつてないほどの最凶最悪さ。あそこまで残酷な仕打ちはそうそう観られませんよ。犬を飼ってる人には深刻なトラウマになりかねん。創作とはいえあんなことを思いついてしまうのもちょっとどうかしていると言わざるを得ない。というか自分の犬であれば合法っぽいような描写だったが、アイスランドではあんなことが実際に許されるの?


…で、そこからのラストがまた途方もなく後味が悪いんですよね。それでいて演出的にはコメディ以外の何物でもないという。これはかなりの切れ味。
ということで、犬を飼ってない人にはオススメです。



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