「アングスト/不安」 感想(ネタバレ)キ〇ガイシリアルキラー映画の極北

 概要

原題:ANGST

製作:1983年オーストリア

配給:アンプラグド

監督:ジェラルド・カーグル

出演:アーヴィン・レダー/シルヴィア・ラベンレイター/エディット・ロゼット/ルドルフ・ゲッツ



見知らぬ老婆を銃で殺害し、刑務所に8年半入っていた男K.。

だが、出所するやいなや鬱積した彼の殺人衝動が次のターゲットを求めて徘徊する。


予告編


感想


私はできれば月に2回ぐらいは劇場で何か映画を観たいと思ってるんですよね。

しかし、地元のどの映画館をいつ見てもラインナップは邦画とアニメばっかり…

私の好きなホラーやアクションやSFなど全然やる気配がありません。

邦画とアニメが憎くなってきた。


と思ったら、そんな絶望感あふれる地方の映画館の片隅に何やら怪しげなタイトルの作品があるじゃないですか。

「アングスト/不安」…いや、これは怪しすぎる。



元々は1983年に公開されたオーストリア製の映画だそうで。

チラシによると、本作は1980年に実際に発生した一家惨殺事件をこの上なくリアルなタッチで描写した実録映画であったため、本国オーストリアではクレームが続出し上映1週間で打ち切り、ヨーロッパ全土で上映禁止、アメリカでは配給会社が逃亡したというかなり大仰な曰く付きの一品です。また、ユルグ・ブットゲライトとギャスパー・ノエが本作の大ファンを公言しているのもこの映画の危なさを端的に表しています。


日本では1988年に「鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜」という邦題でビデオ化されたことがあるとか。それにしても相当カルトでマニアックな珍品であることは間違いない。なんで37年も経った今頃本作が日本で劇場公開されるに至ったんでしょうか。珍しいこともあるものです。



で、内容ですが…

刑務所から出てきたサイコ殺人鬼「k.」が見知らぬ家に侵入し、一家3人を殺害していく様子がひたすら淡々と映し出されます。カメラワークがやけに凝っていて、サイコ殺人鬼の周囲をグルグル回ってたり、歩いているところを上から追ったり下から追ったりと妙に印象的。そこにサイコ殺人鬼のモノローグが入ってくるので、徹頭徹尾サイコ殺人鬼の視点でもって絡みつくように陰惨な一家殺害事件をじっくりネットリ追体験させられるイヤ~な映画です。


これはエンタメではなく純粋に「イヤな体験をさせられる」映画と表現したい。


サイコ殺人鬼のモノローグが入ると言っても、彼の思考回路を理解することは到底不可能。理解出来たら逆にヤバイ。なのでサイコ殺人鬼が何をしたいのか最初から最後までよく分からない。「完璧な計画」と言ってたけど行き当たりばったりテキトーに衝動を爆発させてるようにしか見えません。


彼に精神異常はなく、ただサディズムの気質が強いだけの人間らしい。他人を痛めつけて殺すことにしか興味がないようです。それで精神異常じゃないとか言われても困るんですが。まあそんないい加減な診断をしたせいでこんな事件が起こったと言えます。


本作で描かれる生々しい惨殺事件の様子を観ていると、その辺のスラッシャーホラーがいかにカッコよくスタイリッシュに殺人を描いてエンタメ化しているかという当たり前の事実に気づかされます。本作のサイコ殺人鬼K.はマイケル・マイヤーズのように華麗に獲物を仕留めていくなど全くできない。人を殺すのって結構めんどくさそうだな…とさえ思えるほどにドン臭くて手際が悪い。でもそれが特別身体能力が優れているわけでもない一般的(?)サイコ殺人鬼の現実なんだろうなあと思わされます。


本作はそのドン臭くてモタモタした殺人シーンを一切省略することなく全てを延々と映し出しているからタチが悪い。サイコ殺人鬼k.は変に凝ったシナリオを思い描いてるっぽいが、なかなかその通りに殺せなくてもう汗ダラダラ。観てる方もいい加減疲れてくる。


うっかり「いいからもう早く殺っちまえよ…」とか「グロが足りんな」などと思ってしまった観客が自己嫌悪に陥ったかもしれません。まあ私のことですが。


しかも殺してそれで終わりでもなく、3つの死体をモタモタと車に積み込むところもカットなしで全部見せてくる異様さ。「一家惨殺事件の一部始終を余すところなく見せ切ってやるんだ!」という昏い情熱が伝わってきます。なんでそんなことに情熱を燃やすのか分からんが。


どうして死体を車に積むのかというと別に証拠隠滅でも何でもなくて、次の被害者に見せて怖がらせてやろうとしてるだけってのがまた輪をかけて異常。結局は警察に見せる羽目になるんですが、それでも見せることに快感を覚えているのだから救いようがない。死ぬまで刑務所にブチ込んでおくべきサイコ界の逸材です。それをしっかり表現した役者の演技力も凄い。


監督のジェラルド・カーグルは本作の製作費を全部自費で賄い、本作公開後しばらくは莫大な借金に苦しんだとか。そこまでしてなんでこんな異常な映画を作りたかったのか理解できないし、ある意味監督もかなりのサイコ野郎なんじゃないかという気がします。


そんなサイコによるサイコのためのサイコ殺人映画が37年も経った今、全国津々浦々で劇場公開しているという事実もまたキ〇ガイじみている。映画館ではふざけたアングストTシャツとか売ってるし、凶器のレプリカが展示されてたりと配給会社はかなりの営業努力をしているようです。都会の方ではその甲斐あってかなりの観客が押し寄せたらしいが、一体どういう反応だったのやら…。


本作は面白い・つまらないの尺度で計れるような普通のエンタメ映画ではありません。本物の一家惨殺事件をできるだけリアルに追体験すること。それに価値を感じる人、心の中にサイコ野郎を飼っているような人が隠れて見るべき映画かと思います。


コメント

匿名 さんのコメント…
いきなり長尺のスタイリッシュ自撮りが続くんですよねこれ
2020年の翌年「異常人間溌剌ナイト」セットの一つだったので観ましたが、
https://twitter.com/shin_bungeiza/status/1393565897546031108

・彫りが深すぎる主演俳優
・おばあちゃん、体当たり頃され演技で超頑張る
・彫りが深すぎる主演俳優も弛緩シーンでパンツ脱ぎ超頑張る

ヒッチャーとか他の映画と違って楽しめる系の映画ではなかったなぁ
岩石入道 さんの投稿…
>2023年12月28日 5:00の匿名さん

異常人間溌剌ナイトには笑っちゃいますが見た後ものすごく疲れそうなラインナップですなあ