「オーバー・スピード 時空を超えた目撃者」 感想 トリッキーかつ反則技のロシアンサスペンス

概要

原題:Бег

製作:2020年ロシア

発売:トランスフォーマー

監督:アンドレイ・ザギドゥーリン

出演:エフゲニー・ロマンツェフ/ポリーナ・マクシモーヴァ/レオニド・グロモフ/オレグ・ヴァシリコフ/エカテリーナ・ソコロワ/ナジェジダ・マルキナ


オリンピック代表選考会で優勝した陸上選手のセルゲイ。だがその晩、車で事故を起こして恋人を失くしてしまう。その後、セルゲイは心拍数が230を超えると過去へタイムスリップする体質になっていた。過去で殺人事件を目撃し、死体を発見したセルゲイは容疑者として逮捕されてしまうが。


予告編

感想



ロシア産の時間移動系SFサスペンス。

主人公セルゲイはオリンピック代表になるほどのセレブ陸上選手で、しかしスポーツカーで調子に乗ってしまったために大事故を起こして同乗していた恋人を死なせてしまい、自身はなぜかタイムスリップ能力を身につけてしまう。



これだけだとそこまで変なお話ではないんですが、肝心のタイムスリップ理論がかなりわけのわからん設定になっていて「ランニング中に心拍数が230を超えた状態で、死人が3人以上出た場所へ行くと数日前に遡れる」とか何とか。セルゲイは正確にはタイムスリップ能力を得たのではなく心拍数が異常に上がる体質になっただけで、心拍数さえ上げれば誰でも過去へ行けるみたいです。心拍数と死者と時間軸に一体何の関係があるのか。これはどっちかというとSFってよりオカルト黒魔術の世界に近い。死者の出た場所なら合わせ鏡の間に生肉を置いて踊るとかした方が何か楽しいことが起きるんではないか。



そんな謎現象でも一応科学者っぽいじいさんが出てきてSFっぽく量子力学的な理屈をこねたりして何やかんや説明してくれたんですが、全く要領を得ないので自分を科学者だと思い込んでる悲劇のボケ老人にしか見えませんでした。まあこの作品世界はそういう珍奇な物理法則に支配されているんだとむりやり思い込むしかありません。



それにしても最低でも3人以上死んだ場所でなければタイムスリップできないとは。これはもう「事件に巻き込まれろ」と云わんばかりの面倒な特殊能力ですね。身につけても何も良いことがなさそう。心拍数230超え限定だから過去へ飛んでも息切れして何もできんし。セルゲイが初めてタイムスリップした場所は自宅付近だったので、セルゲイ自身にも密接に関わる殺人事件でした。そこで立て続けに死体を発見したことでセルゲイが疑われてしまう羽目に。



しかし被害者が微妙な知り合いばかりなのでいまいち盛り上がりません。分かるのはセルゲイが異常にモテるということぐらいです。まあそりゃオリンピック代表で大金持ちで影のあるイケメンとくれば不思議ではないんですけども、だからって事件を捜査する女刑事までがセルゲイを愛するようになっていたのはさすがに戸惑いました。ロシア映画におけるロシア警察って本当に予測不可能な挙動をするな…



そして満を持して真犯人が姿を現した時、誰もが「え…誰??誰なのこいつ??」とあっけにとられることでしょう。当然私もそうです。サスペンス、ミステリにおいていきなり全然知らんポッと出の奴が黒幕だったと言われても反則だとしか言えませんよ。…と思ったら、序盤の何気ないシーンでチラリチラリと映っていたことをアピールしてきやがる。まさかそれで伏線のつもりなのか…。そんなモブキャラまでいちいち記憶してるわけないっつうの。そこで怪しげな振る舞いをしていたならともかく、別になんもしてないしさ。



タイムスリップ云々はともかく、真犯人の動機とかセルゲイの自業自得っぷりを見ると、本作はロシア代表選手の調子こきっぷりを批判しているような…もしくはセレブに対する妬みのようなものを感じてしまいます。ロシア代表はドーピング疑惑もあったし国内外からあーだこーだ言われて色々大変そうですね。

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