概要
原題:Occhiali neri
製作:2022年イタリア・フランス
配給:ロングライド
監督:ダリオ・アルジェント
出演:イレニア・パストレッリ/シンユー・チャン/アーシア・アルジェント
ローマで娼婦を狙った連続殺人事件が発生。4人目のターゲットにされたディアナは、車で襲われ交通事故を起こし、命は助かったが視力を失ってしまう。ディアナは同じ事故に巻き込まれて両親を失った中国人の少年チンと一緒に過ごすようになるが、殺人犯は未だディアナのことを付け狙っていた。
予告編
感想
ダリオ・アルジェント監督10年ぶりの新作。
考えてみればずっと前からアルジェントのファンでありながら、劇場で鑑賞する機会はただの一度もありませんでした。今回は幸運にもシアターキノでやってくれていたので初めてスクリーンで観ることができました。実にありがたいことです。意外と…と言っては何ですが、客入りはかなり良かったですね。
とはいえアルジェントも既に82歳。「4匹の蠅」から52年も経っているというね。近年の作品は微妙なのが多いので期待は全然していませんでした。
内容は「原点回帰」「いつもの」って感じの話ではありましたが、盲目の娼婦ディアナと中国人孤児チンとの心温まる絆のようなものが軸になっており、らしくないというかえらく丸くなった印象。80代ともなるとアルジェントでもこうなるのか。ただそんな中でも娘のアーシアがしっかり理不尽な目に遭わされているところは譲れないこだわりなのか。
前半はテンポが良く、人間ドラマ的にはいつになく丁寧なんですよね。犯人以外の登場人物は比較的善人が多く、アルジェント作品のわりには妙に優しい世界に感じられます。犯人の描写の少なさから来る得体の知れなさ、ストレートにスリルを煽ってくる派手な劇伴も刺激的で「今回はいつもより良い出来なのでは!?」という期待を持たせてくれます。前半は。
しかし後半、リータの家に行ってからは急に失速というかどうでもよくなる感じがすごい。体感時間が急に延びます。特に、森の中を逃げている時にヘビの群れに襲われるくだりの無意味さは異常。なぜ急にアニマルパニック化する必要があるのか。しかも何をされてるのかよくわからないうえにやたら長いっていうね。ただ、こういう意味不明な奇行があってこそのアルジェント作品だとも言えます。「インフェルノ」におけるホットドッグ屋みたいな。他にも意味ありげな施設に入ったのに特に何もなく出るだけとか。
犯人の醸し出す「どうでもいい奴」感、その動機の呆れ返るほどのどうでもよさについても実にジャーロ的、いかにもアルジェント的な歪さではあるものの、それにしてもいつにも増して存在感の薄い犯人像だったなーと思います。サスペンス的なトリックも何もないし、印象に残る殺人シーンも特にない。というか被害者自体が少ない。昔のアルジェントはとにかく殺人シーンを撮りたいがために映画を作っているのだと思ってましたが、今ではその点に関しては冷め切っている感じです。
ただそんな中でも盲導犬に対する変なイメージだけはまだ持ち続けているんだな…と思いました。ただの犬が人を襲う映画はよくありますが、盲導犬となるとそうそうないんですよ。過去作でも同じことをやっておきながら今回もまたそれを描くとは、盲導犬への並々ならぬこだわりを感じさせます。おいおいそんな汚くて臭い肉を喰わせるなよと思っちゃいましたけどね。
今回の音楽担当はアルノー・ルボチーニという知らない人でしたが、非常に印象に残る良いテーマ曲でした。本作のサントラだけでなく、他の作品も漁ってみようかなと思います。
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