概要
製作:1982年日本
配給:東宝
監督・脚本:橋本忍
出演:南條玲子/光田昌弘/隆大介/長谷川初範
雄琴でお市という源氏名で働く風俗嬢の道子は、琵琶湖周辺を愛犬シロと共にランニングするのが日課であった。だがある日、シロが何者かに殺されているのが発見される。道子は狂気じみた執念で犯人の日夏を探り当て、奴の趣味も同じランニングであることを知り、駒沢オリンピック公園でランニング対決を挑む。
一方その頃、アメリカ軍ではファントムではなくイーグルが実戦配備についていた。
予告編
感想
私がこの映画の存在を映画秘宝の「底抜け超大作」か何かで知ったのは2003年頃だったでしょうか。東宝50周年記念作品。製作・監督・脚本は日本映画史にその名を残す巨匠の中の巨匠・橋本忍。
…にもかかわらず、「和服姿の風俗嬢が愛犬のカタキを討つため出刃包丁を携え、琵琶湖で作曲家にランニング対決を挑む」という珍ストーリーに戦国時代からの因縁やNASAの宇宙事業まで絡めたとてつもないスケールのポンコツ映画になったという文章に大いに知的好奇心をそそられたものです。
しかし、その時点で本作はビデオ化されておらず、劇場公開当時もあまりに難解すぎる内容にたったの一週間かそこらで上映を打ち切られたという文字通り幻の映画。
(…と言いつつ実は2003年にDVDが出ていたらしく、その時はひっそり発売したのか私が気づいていなかっただけでした)
その後も機会があれば観たいなあと思っていたところ、10年後の2013年にはわりと大々的にDVDが再発売され、これは即新品で購入致しました。しかしこういうものは手に入れただけで満足し、棚にしまい込んで放置してしまうのがマニアの性というもの。引っ越しで荷物を整理するたびに「これ多分一生観ないだろな…」と感じ入るだけの肥やしと化しておりました。
しかしそれからさらに11年後の2024年、なぜか今さら観るきっかけが出来てしまったのです。
まさか2013年の発売当時に買って未開封のまま10年以上放置していたこれの出番がついに来るとは…!?
— 岩石入道 (@ganseki20) April 15, 2024
ただ超長尺なのでGWあたりまでお待ちください。 pic.twitter.com/VqY1Ah6urN
どうして今これが話題になっているのか…
東京の新文芸坐でリバイバル上映中だからでしょうか?
とにかくこう言われてはもう逃げられません。
ということで購入後11年目にしてようやく開封の儀と相成りました。
岩石師匠の「幻の湖」レビューが楽しみすぎる(゜-゜)(。_。) pic.twitter.com/56aQtMnYc7
— 阿部雄大 (@same_abeshi) May 2, 2024
(プレッシャーをかけるんじゃない…!)
それでおおまかな内容は前述した通りですが、これが予想以上に面白くて逆に困惑するくらいでした。阿部雄大先生は「マジで笑った」と言っているものの、彼はサメが転げても笑う人なのであまり真に受けていませんでした。大変申し訳ございません。しかし考えてみれば監督・脚本は巨匠橋本忍なので、著しくご乱心していたには違いないにせよある程度クオリティは高くて当然か。
問題は尺が164分と死ぬほど長いことでしたが、これも意外なほど苦にならず完走。戦国時代のエピソードあたりではさすがに眠りかけてたものの、その後のクライマックスでは本当に冗談ではなく笑いすぎて座椅子から転げ落ちて床をのたうち回るほどでした。あまりの面白さにラスト25分は続けて2回鑑賞してしまった…。
そんなカタルシス満点のクライマックス~ラストも、それまでの異常に丁寧な積み重ねがあってこそ。振り返ると、164分ものトンデモストーリーなのにそれほど無駄がないような気がしてくるから不思議です。戦国時代パートだけはあんなにいらないけど。
まず、主人公である道子の「ランニングが趣味でとにかく走ることに血道を上げている風俗嬢」という設定に違和感がありまくるのですが、これはお市という源氏名に戦国時代からの因縁、繋がりを持たせるための要素。
私は戦国時代パートは別にいらないと思っているので、そこは削って普通の犬好き女子ランナーが犬の仇を討つために作曲家にランニング対決を挑むだけの映画として100分くらいにまとめてくれればもっと良かった気もしますが。でもそうするとスペースシャトルの場面もなくなるのか…
で、前半は道子による犬殺しの犯人捜しサスペンスとなっております。彼女が目を血走らせ、関係者に圧をかけまくり、時には出刃包丁で脅しながら犯人に迫っていく様子はそれはそれで狂っていて面白い。
しかしついに見つけた犬殺しの作曲家・日夏も彼女と同じくランニングを趣味としていたことから、道子は怨念の出刃包丁をそっとしまい、ランニングで日夏を倒すと決意する。
「ぶっ倒れるまで走らせてやる…!」
何も知らずに観た人はさぞかし困惑したでしょうが、知ってて観ていても困惑せざるを得ない迷シーンです。挑むと言っても何の宣言もなく急に一緒に走り出すだけですしね。しかもそのランニングシーンが序盤・中盤・終盤とどれも語り草になるほど長い。
その時点で1時間半ぐらい経っているので、普通ならその駒沢公園ランニング対決で劇終に持って行くところでしょうが、この映画ではまず道子が敗北。性格の悪い作曲家のくせに意外と真面目に走り込んでいるようです。
敗北した道子は「もう堅い銀行員と結婚してヤクザな商売から足を洗って普通の人生を送ろうかな…」などと正気に戻りかけていた最後の勤めの日、よりによって日夏が客としてやってくる。今度こそ出刃包丁を帯に入れた道子は逃げる日夏を追って駆け出す。
「日夏はこれから自分のペースで走る…少しずつ詰めるのよ!」
やっぱりちょっと巨匠のご乱心程度では片づけられないほどアレな脚本です。
しかし、映画はとにかく狂気の沙汰ほど面白い。出刃包丁を持った女に追いかけられているのだから、その辺の茂みや家屋に隠れるなりすれば良さそうなものを、いやに堂々と走って逃げる日夏。
「あの女、意外に耐久力が…!?
どこかでスパートして一気に…
それでレースを終わらせる!!」
「走れ…もっと…
追走者(道子)は目標にぶら下がっているだけだ…
振り落としてみせる!!」
道子が勝手にランニング対決にしていたわけではなく、日夏側も「レース」と認識していたことが判明する衝撃的モノローグに笑いが止まりません。
道子側も
「スタートしてまだ2キロ、
このまま水際じゃまだイキが良すぎる…」
などと本当のマラソン大会か何かのような戦略を練っており、
やたら長いランニングの末に琵琶湖大橋上でようやく日夏を追い越して
「勝ったー!
勝ったわよ!!」
と快哉を叫ぶシーンではもはや爽やかなスポーツ物を見ていたのかと錯覚しかねません。
しかしそこできっちり出刃包丁を取り出し、腰に構えて体ごとぶつかる殺意満点の映像にはもう笑い転げるしかない。ここ数年観た映画の中で一番笑ったと言っても過言ではないほど笑ったけど、あの感触は文章では説明不可能か。こればかりは実際に通しで観て頂くしかございません。
しかも1度刺しただけでは終わらず2度目の出刃包丁アタックをかました瞬間、スペースシャトルがドドーンと発射される映像(本物)で畳みかけてくるのには心底参りました。かったるい戦国時代パートも、全てはこのためにあったのだと。宇宙から見た琵琶湖に笛を固定する映像のインパクトは邦画史上最強なんじゃないでしょうか。いや~、これは噂以上にとんでもない伝説的珍作。非常に満足いたしました。
コメント
謎の塔向かって左にある体育館の屋根が子供でも登れる構造で、
内部に通じる穴が開いてて「これ落ちたらおっちぬよね」
と思いながら登っては見つかり怒られた公園
ご近所の深沢にはカゼッタ岡(1億5000万歳)が住んでいた
こういう珍作でなじみ深い土地が出てきたら楽しさ倍増でしょうねえ
カゼッタ岡という人は初めて聞きましたが動画見たら面白すぎますね、
そういう宇宙電波的な何かをひきつける土地柄なのか?