「フィスト・オブ・ザ・コンドル」 感想 全てを捨て去り、舞い上がれ

概要

原題:El puño del cóndor

製作:2023年チリ

配信:ライツキューブ

監督:エルネスト・ディアス=エスピノーサ

出演:マルコ・サロール/ジーナ・アグアド/エヤル・マイヤー


その昔、インカ帝国でスペインの征服者たちを死に追いやった必殺戦闘術”コンドル拳”。その手引書は何世紀にも渡り、師から弟子へと密かに引き継がれてきた。そして現代。幻の道場へ入門し、コンドル拳の師から継承者に選ばれた男がいた。だが彼は双子の弟に全てを奪われ、追われる身となってしまう。


予告編

感想



日本では今年2月に劇場公開され(1週間だけだったらしいが)、一部の変な映画好きの間で話題になっていたチリ産謎格闘アクション映画。



インカ帝国崩壊時、コンキスタドール相手に猛威を振るった必殺戦闘術・コンドル拳の秘伝書を巡る継承者たちの争い…などと言われては絶対に観るしかないだろ!!…と思ったものの、案の定北海道では上映館無しという悲劇。下くちびるを噛みながら4か月間待たされる羽目になりましたとさ。



で、始まっていきなり驚かされるのが


「フィスト・オブ・ザ・コンドル 前編


という真のタイトル。まさかの二部作ということを隠していた。それは目をつぶるとして、後編は本当に作られるのか?そして日本公開はあるのか?果てしなく心配です。



で内容の方ですが、大筋としては意外とオーソドックスなような気もします(自信がない)。厳しい修業でコンドル拳を身に付けた主人公(名前が分からん)が、秘伝書を継承できたと思ったら双子の弟に全てを奪われ、さらなる修業を積んで復讐に臨む。という感じなので、基本的には昔のカンフー映画と同じようなフォーマットで作られているとは思うんですよ。



ただ、そこにチリというお国柄が混ざり込むことでここまでオリジナリティあふれる作品になってしまうから映画は面白い。確実に今までに観たことがない発想、好事家大興奮必至のレアな珍作格闘映画です。



コンドルと言えば南米に生息するでかい鳥であり、死肉を餌とするスカベンジャー。チリの国鳥でもあります。おっかないイメージはあるけど人に懐いてる動画を見たことがあるし、あれはあれでカワイイと言えばカワイイんです。が、それをモチーフにした必殺拳と言われても正直想像がつかない。一体どんなトンデモアクションが飛び出すのか。



それはひとまず置いといて、本作は構成からして著しくおかしいです。尺が80分しかないのに、全9章に区切られている。いくらなんでも細かく区切り過ぎではないか。1章10分もないぞ。しかも時系列が無駄にせわしなく行ったり来たりする。分かりにくいというほど複雑な話でもないから別にいいけど、それによって何か良い効果が生まれているかというと特に何もない。ただ変なだけです。



そしてさらに変なのが、主人公が敵と決闘している冒頭。クルクル回転して空中回し蹴りを連発するアクロバティックな格闘アクションを披露してくれます。コンドル拳継承者の驚くべき身体能力。それ自体は素晴らしい。



…が、劣勢に陥った敵がふところから手鏡を取り出し、太陽光を反射させて主人公の眼を照らす。すると


「なぜ奴は俺の弱点を知っている…!?」


と光に苦しみ、一気に形勢逆転されてしまう。主人公の弱点がまさかの「光」。別に闇の世界の住人でもない、というかもともと太陽光の下で戦っているのに光がダメとは一体どういうことなのか。ピンポイントで目に当てられるとダメなのか。しかしそれは大抵の人がそうではないのか。光を見るとしばらくダメージをひきずるということなのか。夜間にハイビームの対向車がやってきたらどうするのか。



実はコンドルが夜行性で光に弱い特性でもあんのかなと思ったけど、そんなわけがない。謎です。ちなみに中ボスからも光で攻撃されていたのでみんな知ってる弱点なのだと思われます。



それはさておき、本作も昔のカンフー映画のように充実した修業シーンがあります。幻の道場に入門し、実の母が演じる師匠の下でコンドル拳を継承すべく一風変わった修業に励む主人公。いや、一風変わったどころではなく他では全く見たことのない極めて斬新な修業方法に目を剥かされます。詳細を書いてしまいたいのはやまやまですが、ここは第7章”足なしの春”を実際に観て確かめて頂きたい。



普通、格闘技におけるパンチとはいかに体重を乗せるか、いかに下半身で発生した力を拳に伝えるかが重要なポイントとなります。しかし、コンドル拳は全く違う。”足なしの春”という章題がヒントになっていますが、逆に下半身を完全封印して上半身のみの力で拳を繰り出す! これが想像以上にファンタスティックな絵面。あの珍奇な修業からあんな途方もない必殺拳に結実するとは!? 正直度肝を抜かれました。しまいには本物のコンドルまで出てきてバッチリ仕事をしてくれるのだからたまらない。



コンドル拳と言ったってどうせコンドルっぽいポーズするだけじゃないの?なんて舐めてた心を貫かれた気分です。あれはまさしくコンドル拳としか表現できない代物。映画としての出来がアレだろうが関係ない。面白いものは面白い! いいものを見せてもらいました。後編もちゃんと公開されるといいなー、できれば北海道でも…。




「フィスト・オブ・ザ・コンドル」(Amazon Prime Video)



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