概要
原題：ACIDE
製作：2023年フランス
配給：ロングライド
監督：ジャスト・フィリッポ
出演：ギヨーム・カネ/レティシア・ドッシュ/ペイシェンス・ミュンヘンバッハ
人間の環境破壊がもたらす気候変動は、ついにあらゆるものを溶かす強力な酸性雨を降らせるに至った。フランスで警官を殴り、仮釈放中のミシャルは別れた元妻と共に寄宿舎で過ごす娘を助けに向かうが…
予告編
感想
殺人イナゴパニック映画「群がり」の監督による酸性雨スリラー。
札幌シネマフロンティアにて朝8時過ぎの回で観てきましたが、意外にも客入りはかなり良かったです。
やはりみんな強力殺人酸性雨で群衆がドロドロに溶かされる阿鼻叫喚の地獄絵図を目撃したかったのでしょうか？ もちろん私もそうです。天災が相手のパニック映画はエメリッヒぐらい金をかけないと地味になりがちですが、殺人酸性雨となると途端に見世物として面白くなりそうで胸がワクワクしてきますからね。
しかし、そんな生臭い期待をこの作品はいともたやすく裏切ってきます。”人間の愚かさ”をこれでもかと描く人間ドラマが中心になっているんです。主役の三人家族はよく言えば等身大、ありていに言えば微妙に性格が悪く感情移入しにくい。こんな時にそんなことで揉めてる場合か？と言いたくなる場面が多い。
期待した残酷溶解描写が全くないわけではなく、サメ映画におけるサメ襲撃シーンくらいの分量はあります。特に最初の降雨パニックシーンは素晴らしい。それだけに何かもったいない印象を受けてしまう。やっぱりジュワジュワ溶けて無残に死んでいく人々をもっとバッチリ見せてくれないと、せっかくの酸性雨の恐怖もいまいち際立たない。車で走っていて車体がヤバくなってもタイヤは溶けないですしね。
まあそもそもフランス映画だし、「群がり」の監督だしでそんなこともあろうかとは思ってましたが。見世物スリラーに適した題材を選んでおきながら娯楽色が非常に薄いっていう。
ところで、私はこの手のパニックやスリラー映画で「マッチポンプ」はやめてほしいと常々思っています。つまり主人公自身が起こしたアホな行動で勝手に危機に陥り、そこからの脱出をクライマックスに持ってくるようなのは興ざめしてしまうんです。
そういう観点で観ると、本作はほとんど全てがそんな内容です。酸性雨が降ってくるのは人間の環境破壊が原因だし、主人公の親子は親切な他人を足蹴にしたり、遠く離れた恋人のことばかり考えてるとか何とかでヒステリーを起こした結果、無用な危機に陥ってしまう。私の一番嫌いなマッチポンプ的クライマックスには頭を抱えました。
人間は愚かでアホでクズなんだよ、だから彼らは性格悪くて救えないしあんなひでえ目に遭ったんだよ。とでも言いたげなお話には暗澹たる気分になるばかり。分かりやすいスリルとエグ味を求めてやってきた観客を突き放す。何も解決していないエンディング。実にフランス映画らしい作品でした。とはいえ、求めていたものが全く出てこなかったわけではないので、一応それなりには楽しめたかな。
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