「HOW TO BLOW UP」 感想 石油企業は世界を滅ぼすのか?

概要

原題:How to Blow Up a Pipeline

製作:2022年アメリカ

配給:NEON

監督:ダニエル・ゴールドハーバー

出演:アリエラ・ベアラー/サッシャ・レイン/ルーカス・ゲイジ


環境破壊、石油会社によって人生を狂わされたZ世代の環境活動家たちが、石油パイプライン爆破計画を立てる。それは人を傷つけず、環境も汚染しないように気を使ったテロだった。彼らの乾坤一擲は世界を変える第一歩と成り得るのか?


予告編

感想



若い環境保護活動家たちがテロ行為に走る様をスリリングに描いたエコ・スリラー。

U-NEXTで770円。




本作は社会的なメッセージ性がかなり強いんですが、それを伝えるために娯楽性を重視しているところが良いです。素人くさい手付きで爆破テロを行う計画の危なっかしさと、「あ、今死んだ!?」ってところで場面を切り替え、その都度登場人物の過去を掘り下げながらサスペンスを盛り上げていく。巧みな時系列いじりで真相開示のタイミングに気を遣い、娯楽作としても充分楽しめるようになっていて良かったです。



環境保護活動家って何かとバカにされがちですよね。例えば最近だと「セーヌ川の水面の下で」なんかでも過激な活動家が出てきては目いっぱいヘイトを溜めた挙句、バッチリサメに喰われることでカタルシスをもたらしていました。



まあ、人間や文明より環境保護の方が大事!と主張して人様に迷惑をかけるのも厭わないわけですから、たとえ地球には好かれても人間には嫌われて仕方ないと言えます。



その点、本作ほど環境保護活動家のそれも過激派を肯定的に描いた映画は他にない。ある者は熱波で親を失い、ある者は土地を奪われ、ある者は化学汚染で白血病を患ったと言う。環境を破壊するヤツは許せねえ!生ぬるい活動に時間をかけていては地球が滅んでしまう!こうなったら破壊行為もやむなし!



と、そう思っちゃう人が0.1%くらいは出るかもしれないほどエコテロリズムに肯定的な内容。FBIも危険視したとか何とか。




とはいえ、私は彼らには全く共感も同調もできませんでした。


だから楽しめたと言ってもあくまで技術面でのことのみで、気持ち的には全然入っていけなかったです。いやお前はよりによってエクソンモービルとかシェブロンのような石油メジャーに投資している体制の犬じゃねえか!燃やすぞ!と非難されそうで怖いんですが、共感できないものは仕方ない。



最も気になったのは、彼らが石油会社をあれだけ敵視しているにも関わらずめちゃくちゃ燃費の悪そうな車を普通に乗り回している点です。石油、買ってんじゃねえかと。それでいて他人の車はパンクさせるし。ガソリンもですがプラスチックや化学繊維等の石油製品を排斥するでもなく普通に使用していながら、それはそれとして石油会社を叩こうぜ!という姿勢に賛同はできない。



製作側はその描写をあえてやっているのか、環境活動家はそういうことを気にしないものなのか。彼らの気の毒な事情についても、それ本当に石油会社のせいか?と疑問に思える余地もあり。



何にしろ「早急に脱炭素せよ」と声高に叫ぶのは現状の化石燃料文明を今すぐ捨てろということ。鉄もコンクリも肥料も作れない。農業漁業畜産物流全部ダメ。灯油がないと冬も越せない! そんなことを主張するならまずは自分たちから石器時代に戻って見せる気概が要ると思います。しかし誰もそんなことはしたくないのだから、時間をかけて科学的に脱炭素社会を目指すしかないのが現実です。



「石油会社こそが諸悪の根源」とするのも現代では安直さを感じます。ほんといつも悪役にされてますからね。石油会社の監視員ってあんな簡単に銃をぶっ放してくるもんなの? しかし近年はエコテロリズムに走るまでもなく脱炭素化が叫ばれており、石油メジャーにもかつてほどの威光はない。エクソンモービルなんてダウ工業平均銘柄から外されてしまったほどにオワコン扱いです。



投資家も彼らが思うほど儲けばかり追及しているわけではなく、いや私はできれば儲けたいですが、とにかく脱炭素社会を強く求めています。石油メジャーもそうした投資家の意向には逆らえず、気候変動対応に関して経営方針の転換を迫られたのが数年前。今となってはどこもサステナビリティ、カーボンニュートラルな企業を目指して莫大な額を低炭素事業投資に注ぎ込んでいます。



シェブロンは100億ドル、エクソンなんて170億ドルも低炭素投資に使うと言ってるんですよ。私のカネがそこで役立つなら石油企業に投資したって別にいいじゃないですか。まあ具体的なことまでは詳しく知りませんが、もはや脱炭素化、二酸化炭素回収事業を「やってるフリ」だけでは許されない世界情勢になってると思うんですよ。サウジアラムコでさえやってんだから。



彼らがそれを考えたうえで爆破計画に臨んだようには感じられない。石油企業の綺麗ごとなんか信じられねえよ!と言われそうだけど、それならそれで石油企業を監視するなり、ウソを暴く活動をした方がいいと思うんですよ。私は車に乗ってインフラを破壊する保護活動家よりは石油企業の脱炭素化計画を信じますよ。



彼らにはまず個人的な復讐心があり、手っ取り早く成果を出したい。環境保護をお題目にし、人さえ直接傷つけなれば何をやっても倫理的には許されるはずという甘え。ついでに一発派手な花火を打ち上げて人生を変えたいという願望もあり、過激な手段に出たように見える。



そうでないなら石油施設のせいで病気になったと証明して集団訴訟を起こすなどした方が時間はかかるが効果的と思います。あるいは、2020年のコロナショック時に原油価格がマイナスにまで落ち込んだことを思えば、人々の移動と消費活動を抑制することが最も石油会社にダメージを与えるやり方になるので、そういう方向で地道に啓蒙活動する方が爆破よりはましでしょう。



実際のところ、彼らのエコテロリズムに共感して過激派になる人も出てきちゃうもんでしょうか。ほんの少しだけ心配になりますね。監督はこの映画を通じて気候変動について考えるきっかけになってほしいと思っているそうで。その点では私も珍しくこんな真面目な感想を書いてしまったので、まあ良かったかなとは思います。





「パイプライン爆破法 ー 燃える地球でいかに闘うか」(Amazon)

↑アマプラではまだ配信されてないので原作本のリンクでも貼っておきます。


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