「ドリーム・シナリオ」 感想 何気ない日常がニコケイへと変わる

概要

原題:DREAM SCENARIO

製作:2023年アメリカ

配給:クロックワークス

監督:クリストファー・ボルグリ

出演:ニコラス・ケイジ/リリー・バード/ジュリアンヌ・ニコルソン/ジェシカ・クレメント


平凡な大学教授ポールは、自分の本を出版したいと願っていた。そんなある日、なぜか大勢の人々の夢にポールが現れるようになり、突如として有名人となる。みんなにチヤホヤされて調子に乗り始め出版の夢を叶えようとするポールだったが、次第に夢の中のポールが恐ろしい凶行に走り出し、一転して誰からも嫌われる悲しき中年になってしまう…


予告編

感想



莫大な借金を返すためにやむを得ず変な低予算映画に出まくっていたニコラス・ケイジが、ようやく借金を返し終わって変な映画に出なくて済むようになったはずなのに、新作もやっぱり変な映画だったというかニコケイ史上でも過去最大級に変な映画でした。



何しろ数百万人もの大勢が強制的にニコケイの夢を見させられる怪現象が起き、それによって現実では別に何もしていない平凡な男ニコケイ教授が右往左往するという相当にキテレツなあらすじ。夢の話はつまらないと相場が決まっていますが、ニコケイが出てくる夢となれば話は違ってくる。中でも上に貼った予告編の最後で見られるヤケクソじみたニコケイダッシュのインパクトがすごい。こんな予告見せられたら公開後即劇場へ走らざるを得ませんよ。同じように感じた人はわりと多かったようで、劇場はそれなりに盛況でした。



ぶっとんだ話とはいえ、テンションはまるっきり北欧映画で抑えの効いた作風。テーマもきちんとしており、主人公の承認欲求からくる炎上やキャンセルカルチャー、行き過ぎた商業主義などのSNS社会風刺を軸にしているので、根っこはそこまで変でもないというか本質的には非常にマジメで常識的な作品のように感じられます。変なイメージを持たず、等身大の自分を見てくれる家族を大事にねという教訓。



本質的にはそういう真っ当な作品だからこそ、借金を返したきれいなニコケイが出演する気になったのかなという気もしますが、それはそれとして見た目のおかしさだけでも充分にお釣りが来るクオリティ。



特に、フレディ・クルーガーみたいな存在と化したニコケイに夢の中で苦しめられる学生たちが集団カウンセリングを受けるシーンはここ数年のニコケイ映画でも一番面白い。現実のニコケイはただの無害なオッサンですよ、怖くないよ、少しずつ慣れていきましょう…と優しく語りかけるカウンセラーに合わせて申し訳なさげな顔でじりじり寄ってくるニコケイ。ビビって逃げ出す学生たち。笑えそうで意外と笑えない本作ですが、ここだけは笑ってしまう。



にしても、一体何をされたらそんなにニコケイが怖くなるのか。作中では首を絞めたりハンマーで撲殺した程度だったのでもう少しはっちゃけた悪夢が観たかったですね。ヤケクソニコケイダッシュは最高だったけどほんの数瞬しかないし。



有名人に祭り上げられて多少調子に乗ったとはいえ、別に大したことはしてないのにあらゆる場から疎まれ排斥される構図は差別とかイジメそのものでニコケイが異常に気の毒に見えます。しかし、これが現代の炎上社会。中年男性という被差別階級はいつそんな境遇に陥ってもおかしくはない。特に性的にアレなことをやらかしてしまったら致命的。その点では本作のニコケイは肝心なところで屁をかまして台無しにしたのでまだいい方か。夢の中では相当やらかしていたようですが。



そんなひたすら不憫で情けないニコケイが、一部の好事家のためにやりたくもない仕事をするくだりは自身のキャリアと重なるところもあったのか、リアルな哀愁が漂いすぎています。素なのかどうか微妙なザビエルヘッドもそれを助長している。コン・エアーとかザ・ロックの頃が懐かしいな…。




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