概要
原題:Vermines/Infested
製作:2023年フランス
配給:アンプラグド
監督:セヴァスチャン・ヴァニセック
出演:テオ・クリスティーヌ/ソフィア・ルサーフル/ジェローム・ニール/リサ・ニャルコ/フィネガン・オールドフィールド
エキゾチックアニマル愛好家のカレブは、ある日珍しいクモを手に入れる。喜んでパリ郊外にある団地の自室へ持ち帰ったカレブ。だが、彼がクモをしまっておいた箱には穴が空いていた。脱走したクモは恐ろしく早いスピードで繁殖し、瞬く間にアパート中を占拠してしまう…
予告編
感想
久々の超本格的クモ・パニック映画がフランスからやってくる…ということで期待に胸を膨らませまくっていた作品。本物のクモを200匹も使用していると聞いては居てもたってもいられない。どれだけ楽しみにしていたかというと、公開前のキャンペーンに応募してうっかり当選してしまうぐらいでした。
暗い時に見るとかなりリアルでイイ感じのマグネットです。
その辺に雑に置いておくと、夜中トイレに起きた時などにほどよくゾクっとできます。
それはさておき映画本編の方ですが、
間違いなくクモ映画ファン大歓喜で失禁不可避の
クモ映画史上最高傑作と呼べるものでした。
物心ついた時から筋金入りのクモ恐怖症で、しょっちゅうクモだらけのボロアパートに閉じ込められる悪夢にうなされている私が言うのだから、これは絶対に確かです。決してキャンペーンに当たったからお世辞を言っているわけではありません。ついでに言っておくと、クモはこの上なくキモくて怖くて近寄れないし触れたらショック死するだろうと感じていますが、安全圏から眺めてキモがるのはものすごく大好きです。
そもそもクモ映画というジャンルはサメやワニ映画よりも圧倒的にマイナーであり、名作と呼べるのは
「アラクノフォビア」(1990年)
「スパイダー・パニック!」(2002年)
の2つしかございません。
あとは「ラバランチュラ」「メガ・スパイダー」がそこそこいい線いってたくらいでしょうか。CGでクモを動かすのがめんどくさいせいかあまり数がないんですよね。
しかもなぜかその4作すべてがコメディ調の作品となっています。シリアスなクモ映画の傑作というのはこれまでにただのひとつも無かったのです。そこに挑戦し成功してくれた本作は非常にエポックメイキングな存在であり、クモ映画界の新たなるマスターピースであると言えます。
それで内容の方ですが、エキゾチックアニマル愛好家の主人公カレブが珍しいクモを手に入れ、自宅のボロアパートに持ち帰ったら逃げ出して大繁殖してさあ大変というもの。私が普段見ている悪夢をわりとそのまま具現化してくれた感。それほどまでに遭遇したくない状況であり、ホラー映画的にはこの上なく最高のシチュエーションです。駐車場へ向かうためクモまみれの通路を潜り抜けるシーンのおぞましさは格別に素晴らしい。その後大量のクモに追われながら屋上へ向かうくだりもたまらない。
序盤、クモ1匹が浴室に現れて女の子が友人たちを巻き込んで大パニックに陥るところはいかにもリアルなあるある感があって面白い。
「コップなんか持ってきてないで早く潰してよ!」
「いや、殺さないよ。捕まえるよ」
「いいから早く殺せ!潰せ!」
…この辺のやりとりには、見た目だけで嫌われるクモを、差別されてきた移民貧民になぞらえる意図があるようです。フランス産の社会派クモ映画とは恐れ入る。そういう目で見ると、本作のクモはそこまで積極的に人を殺しにきていないようにも見えます。特に最後に出てきたデカいやつとか。彼らも人間が怖く、ただそこで必死に生きているだけなのです。
とはいえ、さすがにクモは人間と分かり合える存在ではない。カレブたち若い貧民が無数のクモが巣食う巨大な密室と化した円形アパートからの脱出を目指す光景は、偶然だろうけど「エイリアン:ロムルス」に近いものがあります。比べてみると、金がかかっている分ロムルスの方がアクション映画的快楽は上ですが、人物描写はこちらの方が丁寧なのとやはりリアルクモを使用している点でスリルと恐怖では本作に軍配が上がる。まあクモ恐怖症のクモ愛好家という歪んだ人間の視点で言えばですが。ただクモ映画の中では文句なくNo.1だし、アニマルパニック、モンスターパニックという枠に広げても歴代屈指のクオリティでした。
「スパイダー/増殖 オリジナルサウンドトラック」(Amazon music)
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