概要
原題:Dario Argento: Panico
製作:2023年イタリア・イギリス
発売:ハピネット
監督:サイモン・スカフィディ
出演:ダリオ・アルジェント/アーシア・アルジェント/フィオーレ・アルジェント/ランベルト・バーヴァ/ミケーレ・ソアヴィ/クラウディオ・シモネッティ/ギレルモ・デル・トロ/ニコラス・ウィンディング・レフン/ギャスパー・ノエ
予告編
感想
巨匠ダリオ・アルジェント監督の人生と作品を、本人と身内、あと彼に強く影響を受けた映画監督たちのインタビューを交えて振り返るドキュメンタリー作品。私が特に好きなのは「サスペリア2」「スリープレス」「愛と欲望の毛皮」あたりです。
今でこそ丸くて柔らかいおじいちゃんと化したダリオ・アルジェントですが、若い頃は映画の内容も本人の顔も変態的でギラギラしていて怖かったんですよね。昔のインタビュー映像を見てそれを思い出してましたが、そのインタビューの内容すらも怖いからすごい。存在自体がホラーです。
「『サスペリア』という映画の製作中は毎晩のように身投げしたい欲求に駆られた」
とか何とか…ちなみに理由は特に何もないと。むしろ映画監督として成功していて幸せだった時期とも言ってるのになぜか身投げしたいと。
そんな時はタンスを動かすことで衝動を抑えていたそうです。
私は殺人衝動を映画で発散してるのかなと昔は思ってましたが、希死念慮の方だったとは…どちらにしてもあまりまともじゃない感じで製作してたんですね。
弟子のミケーレ・ソアヴィが語るエピソードも興味深い。
「撮影現場には怪しい人がたくさんいたから、ダリオとランベルト・バーヴァが守ってくれたんだ。僕が道を踏み外さないか心配してた」
ってかそもそもその2人がかなり怪しい部類の人では??と思ってしまうんですが、それ以上の怪人が撮影現場に集っていたというのか。まあそれくらいじゃないと「4匹の蠅」みたいな変な映画は出来ないかもしれません。
アルジェントと言えば実の娘を自作に出演させてやたらひどい目に遭わせることで有名ですが、本作ではそんな娘たちが出演作についてどう思っていたかも本人の口から色々語られています。その中でも興味深かったのは、アーシアが
「『デス・サイト』には出演するべきだったけど…」
というくだり。「スリープレス」を差し置いてまさか「デス・サイト」の話が聞けるとは思いませんでした。この作品の本国公開当時、私は楽しみでたまらなくて輸入盤サントラを先に買って正座待機していたんですよね。しかしなぜか待てど暮らせど日本には入って来なくて。その後、6年も経ってからようやくこのしょうもないアホみたいな邦題でDVDが発売され、見てみたら内容もしっかりトホホな感じだったという思い出の一品です。
そんな「デス・サイト」にアーシアはちょうど米国でチャンスを掴みかけていたため忙しくて出演できず、それが原因で数年間ダリオと口を聞かなかったというから驚きです。ファンから見ても大した記憶に残らないトホホ映画でもダリオ本人にとっては相当重要な作品だったらしい。いや、オレの頼みも聞いてくれないのか!とへそを曲げていただけかな。ところで今気づきましたが、「デス・サイト」(Amazon)のDVD相当プレミアついてますね。買っておけば良かったか。
「オペラ座/血の喝采」の主演女優が「ダリオが何なのか全く分からない」と語るインタビューも印象的。毎朝スタッフが下まぶたに針を貼り付けてきてかなりつらかったそうです。何してるんでしょうね本当に。私も一応これ観てるはずなんですが、まぶたに針を貼りつけられて痛々しそうだなあという記憶しかなくストーリーなんて全く思い出せません。
本作中一番面白いのが、ギレルモ・デル・トロが「インフェルノ」に出てくるホットドッグ屋のオッサンについて熱く語る場面です。まさか2024年になってそんなことを話す映画監督を見られるとは思わなかった。ファンの間ではあの超難解な「インフェルノ」の中でも屈指の意味不明な珍場面として語り草になっているホットドッグ屋のくだり。一応軽く説明しますと、川へネコを捨てに来たじいさんがネズミの群れに襲われ、その辺にいたホットドッグ屋のオヤジが包丁片手に駆け寄ってきます。で、じいさんを助けてくれるのかと思いきや、なぜか包丁でザクザクぶち殺してしまうっていう。そしてそれが本筋には関係がなくホットドッグ屋もそれっきり。
ギレルモ・デル・トロ的にはそのシュールな場面も
「驚くほど強固だ」
なんだそうですが「強固」とはどういう意味なのか?
「疑問の余地がない」
疑問しかないのに??
「万物は悪意に満ち、理解しにくい」
理解しにくいのは確かです。
なのでそのへんもう少し具体的にどうぞ…と思って聞いてましたが、けっこう長く語ってるわりに抽象的で難解すぎてやっぱり全然分かりませんでした。巨匠にしか分からない何かがあのホットドッグ屋にはあるのか??
コメント