概要
原題:CENSOR
製作:2021年イギリス
配信:OSOREZONE
監督:プラノ・ベイリー=ボンド
出演:ニアフ・アルガー/マイケル・スマイリー/ニコラス・バーンズ/ビンセント・フランクリン/ソフィア・ラ・ボルタ/エイドリアン・シラー
残虐なビデオ映画に対する世間の目が厳しくなっていた1980年代のイギリス。映画検閲官のイーニッドは暴力的なホラー映画の残酷シーンをレーティング、カットする仕事を淡々とこなしていた。彼女には幼い頃に行方不明となった妹がおり、まだ生存を諦めきれずにいた。そんな折、検閲していたホラー映画の出演者に妹の面影を見い出し…
予告編
感想
9月に公開され、気になっていたもののタイミングが合わず見損ねてしまっていた作品。
テリファーのすぐ後に見たらより楽しめそうだな~と思い、880円も払ってレンタルしてみました。
1980年代に全盛期を迎えた悪趣味スプラッターホラービデオ業界は、我が国では主に宮崎勤事件などのせいで締め付けが厳しくなり下火になっていった経緯があります。
私は13日の金曜日くらいは「13日の金曜日」を放送してもいいじゃないかと思い続けていますが、金ローはひたすらジブリとハリポタとディズニーばかり狂ったように流しています。タバコの煙のような扱いを受けるホラー映画。本当にこれでいいのか。80年代と今、どちらが健全な社会と言えるのか。13金やプレデターを堂々と地上波放映できる世の中こそ真の健全な社会ではないのか。テリファーは流さなくてもいいけど。
1980年代サッチャー政権下のイギリスでそういったホラービデオがどういう扱いをされていたのか。専門の検閲官がいたとは日本よりも厳しい目に晒されていたらしい。そんなこと全然知らなかったどころか正直気にしたことすらなかったので、本作の前半部は非常に興味深く楽しめました。
それにしても、ホラー映画を見るのが仕事だなんて極めてうらやましく妬ましいという他ない。そんな楽しい仕事があるならぜひやってみたいものです。薄給でもいいから。何なら休日出勤してもいいですよ。しかし今の日本だとその仕事は映倫。当然、一般人が映倫に入ることはまず不可能。全くつまらない世の中です。
主人公の検閲官イーニッドは別に面白くもなさそうに淡々とホラー映像を見つめてはレーティングを決めたり残酷シーンをカットしていく。まあ公務員なんだろうし、彼女がやりたくてやってる仕事では全くないですよね。うらやましいとは言ったものの、ホラー映画が好きじゃない人にしてみれば相当な苦痛を伴いそうな業務です。私だって恋愛映画のレーティング(そんなもんないけど)をする仕事なんてやらされたら数日で発狂しかねません。このように人によって何が有害かは全く異なるものであり、ホラーがけしからんと感じる人はただ数の暴力を持って規制すべしという風潮を産み出しているだけなのです。
それはそれとして、仮にホラー好きがやってたとしても今度はカットするのがイヤになりそうな気はします。自分としてはノーカットで世に出したいのにお上がうるさいから見せ場をカットだするなんてそれはそれでつらすぎる。この当時のイギリスでテリファーが検閲されたらやっぱり即刻発禁扱いでしょうか。80年代はもっとひどいのあったかなあ。
イーニッドが検閲し販売を許可したホラービデオを真似たような殺人事件が起こり、世間のバッシングを浴びてしまう。こういう場合、末端の検閲官に直接矛先が向くものなのか? 検閲組織、それよりまず映画製作者ではないのか?
その辺は疑問ですが、
「ひどい映画を見せやがって
恥を知るんだな!」
なんて電話が直接自宅に来るのは恐ろしくストレスがたまりそうです。ひどい映画を流通させてくれるなんてむしろ感謝されるべき存在だというのに。
ホラー映画を検閲しすぎておかしくなったのか、それともこういった圧力によるストレスでおかしくなったのか。イーニッドはホラー映画の中に生き別れた妹の姿を見出し、現実と虚構の区別がつかなくなってゆく。私はこういった虚実が曖昧になるメタ展開はあんまり好きではないので前半ほどは楽しめませんでしたが、メッセージ的には「ホラー映画の見すぎが人に悪影響を及ぼすのではなく、あくまでその人固有の問題が原因なのだ」という風に受け取りました。イーニッドは生き別れた妹にあれほど執着してなければ壊れてなかったと思いますしね。普通の人はホラーと現実を混同なんてしないし、それが分かってない人は何か別の問題があると考えられます。ホラー映画の視聴は健全でありむしろ推奨されるべきなのです。ということで、改めて金ローは13日の金曜日に13日の金曜日を流してほしいかなと思いました。
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