概要
原題:Vincent doit mourir
製作:2023年フランス
配給:ナカチカピクチャーズ
監督:ステファン・カスタン
出演:カリム・レクルー/ヴィマラ・ポンス/フランソワ・シャトー/カロリン・ローズ・サン
ヴィンセントは職場の実習生に突然ノートパソコンでぶん殴られる。理由も分からないまま、今度は経理の男にペンで腕を刺される。だが、彼らはなぜヴィンセントを攻撃したのか記憶もないという。通りすがりの他人やアパートの子供たちにまで殺意全開で襲われるようになったヴィンセントは、そのスイッチが目を合わせることだと気づく。
予告編
感想
誰かと目が合っただけで突然暴力を振るわれる体質になった男の話。
「アシッド」「動物界」「スパイダー/増殖」など、今年は厄介な世相を反映したフランス映画が多いですね。移民を受け入れすぎて治安が悪化し、極右政党が躍進して政情が荒れているというニュースは目にしてますが、その辺の市民間でも目と目が合っただけで殺し合いに発展してもおかしくないほどの一触即発感が今のフランスにはあるのか。
スタンド能力的なものは別として、今の日本からは出てこない設定と思います。例えば、仮に私がヴィンセントと同じような体質になったとしてもおそらく気が付くことさえないでしょう。他人と目を合わせることなどまずないからです。仲の良い人間と向かい合って話す時ですら目は見てない。視線はせいぜいネクタイの結び目あたりに置いておくのが精一杯。皆そうですよね。違う?私が対人恐怖症のチキン野郎なだけですか? …良くても鼻ぐらいかな。鼻見てるだけでも発動するのかな?あの症状。
ただ、やってはいけないと認識すればするほど逆にやりたくなってしまうのが人間の性でもありますので、何かのきっかけで気づいてしまったら逆に平常時より積極的に人の目を見てしまう自信はあります。ヴィンセントも「ずっと目をそらしてればいいだろ」と突っ込みを入れたくなるほどむやみに殺意を発動させていますが、そういう人間の性に逆らえないといったところでしょうか。
理性を失くした殺意全開の人間に襲われる絵面はゾンビ物に近いノリですが、こちらはヴィンセントから離れてしまえばすぐ元の人間に戻るのでうっかり殺すわけにもいかない。噛まれて感染が広がるわけでもないし、ある程度見ても平気な人もいて法則が曖昧。ゾンビ物とはまた別種の緊張感があって面白いです。前半は。
ただ、そんな状況でもヴィンセントはしっかり理解ある恋人を作り、やることはやるのでわりと余裕があるように見えてしまう。今のフランス社会も異常な状況だけど、もはやそれがニューノーマルなので普通に耐えながらも人間らしい生活を送れということでしょうか。考えてみれば、職場でいきなり激しい暴行を受けた後も「まあそんな大したダメージじゃないし勘弁してやるか」って感じだったのでヴィンセントさん相当タフな人のようです。ランボーばりに自分の傷も縫ってたし。この野蛮な社会を生き抜くためには彼のようなタフさが必要なのだ。
そのまま後半は恋愛映画みたいになっていくので、私の好みとはちょっと違う方向性に進んでしまいました。理不尽な暴力が蔓延る絶望的な世界でも、愛さえあれば何とかなるのだ的な。まあ、それはそうかもしれんけど。私のような人間にとっては後味の悪い話でした。私が生き延びるためにはひたすら別荘で人と目を合わさずゴロゴロしてるしかないかな。
「またヴィンセントは襲われる」(Amazon Prime Video)
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